B-Cat Software BLOG

サークルの事とか同人活動の事とか

ゲームデザインとハンディキャップについて思う事

はじめに

昨日、下記のツイートをしました。

これまでのCELIAシリーズ(CELIA for PC-8801mkIISR、CELIA for X68000、CELIAおかわりっ!)では、水晶玉がバウンドする際に効果音(壁に衝突した時の「ぼよ~ん」という音)を鳴らしています。

ステージによっては、バウンドした回数を数えて水晶玉の進行方向を把握しておかなければならないようにデザインしているのですが、一度でも効果音を聞き逃してしまうとそのステージを攻略する事はできません。
一度でも聞き逃しただけでクリアできないのであれば…
もしプレイしている人が聴覚に障がいを持っていたとしたら、「効果音を聞き逃すどころか数えることが出来ない」という問題が生じてしまうのです。

 

ようやく32年越しの約束を果たす

この問題に気付かされたのは、32年前に頂いたアンケートが同封されたお手紙でした。

お手紙の差出人は、通販でCELIA(CELIA for PC-8801mkIISR)を購入されており、前述のような水晶玉のバウンドを応用したステージを、重度の難聴によってクリアできない旨を綴っておられました。
差出人の方は不便を強いられたお客様の立場ですから、CELIAに対して不快感や怒りといった感情を露わにしたとしても、作者としては真摯に受け止めるしかありません。
しかし、この方はCELIAの事を非常に気に入って頂き、褒めて下さいました。それだけに、とても申し訳ない気持ちでいっぱいになったのを憶えています。

数日後、不便をお掛けした事に対するお詫びの手紙を書きました。
直ぐに返事を書けなかった理由は、どうすればこの課題を解決できるのか当時の私では思い付くことができず、暫く考え込んでしまったからです。
もう32年も前の話なので、手紙の詳細な内容までは憶えていませんが、「何らかの策を考えて改善する」という旨の約束を書いた事だけは今でもはっきりと憶えています。

…そして32年がたった2021年、ようやく約束を果たせる時がやってきました。

残念ながら、頂いたお手紙は実家の荷物が家族によって整理された際に紛失されてしまったので連絡する事は叶わないのですが、その方には是非CELIA for MSX2を遊んで頂きたいです。

One-Handモード誕生のきっかけ

現在、私の友人は麻痺を患っており、その影響で両手を使うゲームをプレイする事が困難な状況にあります。彼は、以前からCELIA for MSX2の完成を楽しみにして待ち望んでくれていたファンの一人でもあるのですが、方向ボタンとトリガーを使うCELIAをプレイすることはできません。そんな彼にどうにかして遊んでもらえるように出来ないかと考えた結果、方向ボタンだけでプレイできる「One-Handモード」を考案しました。

One-Handモードは従来の操作性とは若干異なるので、旧作をプレイした事のある人は混乱するかもしれません。しかし、慣れてさえしまえば遊びやすいと感じる人もいるのではないでしょうか。

通常モードとOne-Handモードはプレイヤーの好みで使い分けが可能であり、これによってゲームデザインを変えたり諦めるといった犠牲は何一つ生じていません。

ゲームデザインにできること

ぷよぷよeスポーツは2020年に大幅アップデートを実施したのですが、その中に「色覚多様性の対応」というアップデートが含まれていました。game.asahi.com

今まで「ぷよぷよ」というゲームは、色覚に関する障がいを持つ人の症状の度合いによっては事実上プレイが不可能なゲームでした。それは、「ぷよの色を区別できない」というたったそれだけの障壁だったのですが、彼らにとっては絶望的な壁なのです。

このアップデートは、プレイヤーが各種類のぷよを区別できるよう柔軟にカスタマイズできるという機能なのですが、ただそれだけの対応によって救われる人が沢山いるのです。 

特筆すべきは、このアップデートを提供した事によるゲームデザインへの影響は全く無いという事です。

障壁と「面倒くさい」は全く異なるもの

これは、あるユーザーからの提案の要約したものです。

水晶玉がどの方向を向いているのか視認できないのは不便。
常に矢印を表示して方向を視認できるようにしてほしい。

また、このような意見もありました。

水晶玉が移動するタイミングが分かりづらい。
次に移動するまでの残り待ち時間を表示して欲しい。

しかし、残念ながらこれらの提案を当サークルが採用する予定はありません。それには明確な理由があります。それらがハンディキャップに起因する障壁とは明らかに性質が異なるからです。

突然ですが、皆さんは「スリーシェルゲーム」をご存じですか?
恐らく名前は知らなくても一度は見たり遊んだりした事があるはずです。3つのカップのうち1つにボールを入れて高速にシャッフルし、どのカップにボールが入っているかを当ててもらうゲームです。

オンラインで遊べるサイトを見つけたのでリンクを貼っておきます。

novelgame.jp

 スリーシェルゲームは、オンラインゲームやスマートフォンアプリなどでは、クリアする度にスピードアップしていき、最終的には目視では追いつけない速度までスピードアップしていきます。しかし、実際にカップとボールを用意して目の前で実演した場合はどうでしょうか。動体視力の限界を遙かに超えるような速度で高速にシャッフルする事は不可能ですよね。

そこで、1つめの提案を思い出して下さい。
水晶玉は数秒おきに1マス移動しようとするため、集中してプレイしていれば絶対に聞き逃す事はありません。つまり、バウンドする回数を取りこぼすのは(主にプレイヤーの集中力に起因する)プレイヤー側のミスであり、ステージによってはミスを誘発させるよう意図的に仕組んでいます。つまり、パズルゲームとしての構成要素の1つであり、ハンディキャップによる障壁ではないのです。
1つめの提案をスリーシェルゲームで例えるなら、ボールの入ったカップに目印を書いておくのと何ら変わりなく、つまりはスリーシェルゲームという遊びを根本から否定する事になります。

では次に、皆さんはストップウォッチでこんな遊びをした事がありませんか?
tc-boat-race.com

ストップウォッチを裏返してタイマーが見えないようにし、適当なタイミングてストップボタンを押してジャスト10秒を狙う「10秒当てゲーム」です。誰が一番10秒に近いか友達と競い合うと面白いですよね。

では、ストップウォッチのタイマーが見える状態でボタンを押したら「10秒当てゲーム」は成立するのでしょうか?もちろん成立しませんよね。肌感覚でタイミングを取って誤差を競う遊びだった筈が、単に動体視力を競う遊びに変わってしまいます。10秒当てゲームは、プレイする人によって大きく差が出るのが醍醐味であって、ミリ秒やマイクロ秒の反射神経を競い合うゲームではないのです。

そこで、2つめの提案を思い出して下さい。
水晶玉の移動するタイミングを視認できるようになると、タイミングよくブロックを押すという反射神経を求められるようになり、リアルタイム性の意味が異なったものになってしまいます。CELIAが求めていたのはどちらの遊び方だったのか、言うに及びませんよね。

これら2つの提案の裏に隠されている提案者の本音は「面倒くさい」です。これを言い換えると「リアルタイム要素が鬱陶しいので排除して欲しい」というのがその人の本音なのです。
パズルというものは作者との知恵比べをする遊びです。一定のルールに沿って綿密に組み立てられた問題を、そのルールに沿って解く事がパズルの醍醐味です。勿論そのルールに興味が無い人もいるでしょうし、何度遊んでも面白さを理解できない人だっているでしょう。
ただ、闇雲にユーザーの意見を取り入れたところで面白いゲームになるという保証はありません。その要望を実現する事がハンディキャップを持つ人への救済策になり得るのか、ゲームの面白さの根幹を壊したりはしないか、正しく見極める事が重要です。

さいごに

CELIA for MSX2で2つのハンディキャップ対策を実装する事になったので、このブログエントリを書きました。

今回は、たまたまゲームデザインに影響しない軽微な修正だけでしたが、もしそうでなかった場合は対応を見送っていたかもしれません。

バリアフリーノーマライゼーションと向き合う良いきっかけになった思いました。